マレーシアで何を学び、MSBK R3でどう変わったのか|何俊鵬 & 歐陽俊義

2026年7月31日から8月2日にかけて、マレーシア・セパン・インターナショナル・サーキットで開催された Malaysia Superbike Championship(MSBK)Round 3。
Silver Steed Racing Team(銀驥車隊)からは、何俊鵬(JP)が1000Bクラス、歐陽俊義(Alen)が250Aクラスに参戦した。
そして2人は、今回のR3でそれぞれ自己ベスト(PB)を更新。ただ、この結果はR3の週末だけで生まれたものではない。R2を終えた後、2人はマレーシアに残り、ZK Racingのもとで約3週間にわたるトレーニングを行った。そこで与えられた課題は、2人が自分自身で考えていたものとは少し違っていた。
JPが自分の課題だと思っていたのは「長距離でのペース」。Alenは「アグレッシブさが足りない」と考えていた。しかし、コーチから見えていたものは、それだけではなかった。
自分では見えていなかった課題を知り、それを練習する。そして、その経験を実際のレースで試す。今回のMSBK R3は、2人にとってそんなトレーニングの成果を確かめる場でもあった。
R2の後、マレーシアに残った理由
MSBK R2で、JPにはポディウムを狙える可能性があった。しかしRace 2でクラッシュ。悔しさを残したまま、次のR3を迎えることになった。

そこでJPとAlenは、マレーシアでのトレーニングを続けることを選択した。
ZK Racingのもとで行われたトレーニングでは、普段とは異なる環境の中で、マレーシアのライダーたちと一緒に走る。ダートトラック、Pit Bike、ゴーカートサーキットなど、さまざまな環境で基礎的なバイクコントロールを繰り返し、さらにサーキットでは実戦的な練習も行った。
そこには、単純に「速く走る」だけではない目的があった。自分の走りを客観的に見てもらい、自分でも気づいていない課題を見つけること。
JP|「長距離ペース」が課題だと思っていた

JPがトレーニング前、自分自身の弱点として挙げたのは、長距離でのペース維持だった。
僕の長距離のペースです。例えば10周なら、7周目くらいからリズムが落ちてきてしまいます。
ところが、コーチから指摘されたのは、それだけではなかった。集中力、理解力、コミュニケーション能力、そしてメンタル。一見すると、サーキットでのタイムとは直接関係がなさそうにも見える。しかし、長いレースを安定して走り続けるためには、状況を理解し、自分の状態を把握し、必要なことをコーチと共有し、そして焦らず判断する力が必要になる。
JPにとって今回のトレーニングは、単純に「速く走るための技術」を学ぶものではなかった。レーサーとして、一段上のレベルを目指すためのトレーニングだった。
「焦れば焦るほど、逆効果になる」

長距離でのペースに対しては、自転車トレーニング。集中力に対しては、神経系を使ったトレーニング。そしてメンタル面では、Adam Norrodin (@adamnorrodin07) から週末全体の組み立て方についてアドバイスを受けた。
例えばフリー走行の1本目は、最初から無理にプッシュするのではない。まずはリラックスしてセッションを最後まで走る。ペースは自分のPBの70~80%程度。そこで問題を見つけ、車両を調整する。そして2本目でプッシュする。「最初から速く走らなければならない」という考え方とは、少し違う。
さらにAdamや富哥からは、こんな言葉も受けた。
どんな状況でも、焦れば焦るほど、力めば力むほど逆効果になる。楽しむこと、リラックスすること、今この瞬間を楽しむこと。
この言葉を意識しながら、JPは毎回のセッションを最後まで走り切り、トレーニング中も集中することを意識した。また、自分からコーチに質問し、積極的にコミュニケーションを取ることも心がけた。
その結果、精神的な集中を続けるトレーニングになった。
このトレーニング期間は、身体よりも頭がすごく疲れました。
Alen|足りないのは「アグレッシブさ」
一方、Alenが自分自身の課題として考えていたのは、アグレッシブさが足りないこと。しかしコーチから返ってきた言葉は、ちょっと違った。
スムーズに走れている。だから、そこにアグレッシブさを足せばいい。
Alenにはすでに、冷静に走れること、スムーズにバイクを動かせるという強みがあった。必要だったのは、それを失わずに、必要な場面でさらに攻めること。
言葉にすると簡単だ。しかし、実際にやってみるとそう簡単ではない。その難しさを、AlenはR3の前に早速経験することになる。
アグレッシブに行き過ぎて、R3の練習1で転んじゃったんです(笑)
冷静さを保ちながら、アグレッシブさを加える。そのバランスを身につけることが、Alenにとって次の課題になった。
マレーシアのライダーから学んだ「攻め方」
今回のトレーニングで2人が得たものは、コーチからの指導だけではない。マレーシアのライダーたちと一緒に走り、彼らの走りを間近で見ることも、大きな経験になった。
特にAlenが印象に残ったのは、マレーシアのライダーたちのレーススタイルだった。
それまで、東南アジアのライダーには、命がけで無理に攻めるような危険なスタイルの人が多いという話を聞いていた。しかし、実際に走ってみると印象は全く違った。

実際にはもっと洗練されていました。無理に攻めたりしない。トップライダーであればあるほど、抜かすことに必死ではなく、チャンスを伺う冷静さとコントロール力、安定感がありました。
速いライダーほど、ただ強引に仕掛けるわけではない。状況を見て、チャンスを待ち、必要な瞬間に仕掛ける。Alenがトレーニングを通して学んだ「アグレッシブさ」は、単純にアクセルを開けることでも、無理に追い抜くことでもなかった。冷静さを持ったまま、必要なところで一歩踏み込むこと。それもまた、レーシングライダーに必要な能力だった。
この人たちは、なぜここまでして走り続けるのか
JPにとって、今回のトレーニングで特に印象に残ったのは、ライダーたちの走りだけではなかった。Danial Shahmi (@danialsyahmi57) のふくらはぎに残る大きな傷跡を見たときのことだ。

一度見て、すぐに目を閉じました。あれほど運動能力を失うような怪我をして、それでも彼がどうしてレースを続けることを選んだのか、自分には想像できませんでした。
JP自身もトレーニング初日に転倒し、小指を痛めた。もちろん痛みはあった。それでもトレーニングを続けた。
彼らが負った怪我は自分のものよりもずっとひどい。そういう姿を見て、自分には休む理由がないと思いました。
大きな怪我を経験しても、再びバイクに乗る。トップレベルで戦い続ける。その姿は、JPにとって技術以上に強く残るものだった。
トレーニングで変わった「バイクとの向き合い方」
そしてR3を迎える。JPは今回のトレーニングについて、身体の姿勢そのものよりも、タイヤに対する感知力を重視されたことが大きかったと振り返る。
以前は、バイクがコントロールを失ったり、滑ったり、フロントが浮いたりすると、バイクをコントロールできないと感じていました。でも今は、以前より自信を持ってバイクをコントロールできるようになりました。
さらに、リアブレーキの使い方にも変化があった。
リアブレーキを使うことも以前より増えました。バイクの動きをコントロールするために、進入でも立ち上がりでも使うようになりました。
トレーニングで学んだことが、少しずつ実際の走りに変わっていく。そしてR3では、その変化を結果として確認することができた。
MSBK R3|トレーニングの成果をレースで試す
R3でJPは、Race 2で自ら設定していたターゲットタイムを上回るPBを更新。Alenも自身のPBを更新した。トレーニングをしたから、すぐに速くなった。そんな単純な話ではない。

練習の中で課題を見つける。それを繰り返し練習する。そして、レースというプレッシャーのかかる環境で実際に使ってみる。
その積み重ねの先に、今回のPB更新があった。
Alenにとっても、R3はマレーシアで得た経験を実際のレースで試す場になった。

知り合いや友達が増えて、一緒に走るのがとても楽しくなりました。
マレーシアで一緒に練習したライダーたちとのつながりも増えた。集団の中でバトルをしながら走ること自体が、冷静さとアグレッシブさを実践するトレーニングにもなった。
課題が分かった。練習方法も分かった。
マレーシアで行ったのは、ただサーキットを何周も走るだけのトレーニングではない。ダートトラック。Pit Bike。ゴーカートサーキット。さまざまなシチュエーションで走ることで、バイクコントロールや状況判断を磨いていく。そして、マレーシアのトップライダーたちとの交流。それぞれの環境で自分の課題と向き合い、コーチから具体的なアドバイスを受ける。
そして重要なのは、マレーシアでしか練習できないことだけではないということだ。そこで見つけた課題や、教えてもらった練習方法は、ホームに戻ってからも繰り返すことができる。
課題が分かった。
練習方法も分かった。
あとは、改善を重ねていく。
今回のMSBK R3で2人が更新したPBは、その最初の結果のひとつに過ぎない。
次はMSBK R4。マレーシアで得た経験を持ち帰り、さらに走りを磨いていく。JPとAlenが、この先どこまで成長していくのか。その続きが楽しみだ。
